現場よもやま話 no.8

内壁付着菌の影響と対策

“よもやま話no.7”で紹介したように、大規模設備のほうが小型ジャーより有利になることが時にはある。今回紹介する菌の付着現象もその一つである。

液体培養の通気攪拌で発生した液飛沫(液体培地と菌)がヘッドスペース内壁に付着し、その付着箇所で菌が増殖して液体中に落下することなく、垂直や前傾した内壁で積層増殖を続ける場合がある(菌種や培地組成等に依存する)。内壁環境は、栄養も空気も豊富、かつ攪拌のせん断力ストレスも受けないため、液体中よりも増殖に好ましいのであろうか…こんな現象が続くと、液体中には菌が殆ど増えず、培養液からサンプリング分析したデータはまともに使えない、このような苦い経験が筆者にはある。

このヘッドスペース付着菌を落として液体中に戻すために、小型ジャーの場合は、定期的にジャーを手作業で揺らして菌を落とすことを行なった。固定されたジャーの場合は、植菌口の火炎に十分な注意をしながら、ピペット等の無菌治具を定期的にいれて手作業で菌を掻き落としたり、無菌的に水を圧送する装置を自作して植菌口から高圧無菌水をジェット噴射する(ジェット無菌水による希釈影響が無視できるレベルに量を抑えながら)ような工夫をして、データの再現性を得ることに苦心した。

付着菌体の影響を定量的に確認しておくために、菌を掻き落として測ったところ、内壁の単位面積当り菌の付着量が大型タンクと小型ジャーでほぼ同じであり、スケールアップによる槽内面積増加分が計算通りに菌体総量に反映される結果となった。結論として、大型タンクの場合は、付着菌量が相対的に無視できるレベルに抑えられていたので、データ再現性への心配は不要であった。培養実験の再現性としては、大規模になるほど有利であったが、培養後のタンク内壁洗浄は逆に大変なことになるのは言うまでもないことで、この経験については、改めて紹介していきたいと考える。

(執筆:K.Hi.)