現場よもやま話 no.7

簡便な攪拌所要動力測定

“現場よもやま話no.6”では大型設備でのkLa測定経験談を紹介した。しかし逆に、大型設備の方が、安定したデータを簡便に獲得できる評価手法もあり、その例として攪拌所要動力の測定について紹介する。

 必要なものは電力計であり、電線ケーブルをクランプで挟み込むタイプや、攪拌モータインバータ等に消費電力表示が予め内蔵されているタイプもある。

 図Aに示すように、培養液量に応じた水を張り込んで、所定条件で回転し、消費電力を測定する。次いで、設備自体による機械的エネルギー損失を把握するため、図Bのように空運転時の消費電力も水張と同回転数条件で測定する。そして、両者の差分を計算すれば、簡易的に攪拌所要動力を求めることができる。一番の注意点は、空運転対策であり、攪拌軸受けがタンク底に有る場合は、その部分だけ水を張って加熱防止対策をする(図B)。攪拌軸の中間に軸受けがある場合は、攪拌翼ブレードに抵抗を与えないように留意しながら、攪拌軸にホースで散水するような工夫も必要になる。

 設備の安全対策として、運転可能範囲やモータ特性を仕様書等で確認しておくことは言うまでも無いことである。また、電力計設置を行なう場合には、有資格者がブレーカーON/OFF作業を行なう等の労働災害防止の安全対策もより重要になる。

 攪拌動力と酸素移動容量係数(kLa)の相関関係について、様々な報告が為されているため、対象とする培養品目に適した関係を見つけ出すことで、大型設備の性能評価と通気攪拌条件の最適化を簡便に行なえる。この方法の弱点は、小型ジャーファーメンターで同様の評価ができないことである。小型になると、攪拌機の機械的損失が相対的に大きくなるため、適切な計測ができない。筆者の経験では、タンク容数百リットル以上は本方法で評価できたが、数十リット以下では評価不可であった。理想的には、攪拌軸への負荷トルクを歪ゲージ等で計測することだが、蒸気滅菌と軸無菌シールできる計測器が無いため、代替方法として、トルク測定機能の付いた小型攪拌機とベッセル(翼と槽をジャーと同一幾何形状で特注製作)を準備したり、通気条件の場合はエアー供給方法をジャーファーメンターに合わせる等の工夫が必要になる。小型ジャーファーメンターの動力測定は、このように煩雑になるため、攪拌翼と槽形状に応じた動力数を文献値等から推定して、翼径と回転数を乗じて攪拌動力を推算する方法が一般的に使われているようである。

(執筆:K.Hi.)