設備設計

培養タンクの限界能力

“現場ナレッジ 簡便な攪拌所要動力測定内壁付着菌の影響と対策”では、大規模設備で有利になる事例を紹介したが、逆に機械的強度という観点で設備仕様の限界を把握しておくことは重要と考えている。培養の経済性においては、大規模設備の方が、工程管理やオペレーション等の固定費的な割合が相対的に減るため製品原価としては有利になるが、一方で、汚染等のトラブル時の損失影響や、設備製作上の制約が大規模化で大きくなるため、これらを総合して適切な設備規模を設計する必要がある。

 筆者は、高粘性で酸素要求性の高い通気攪拌培養に携わっていたため、良好な生産性を獲得するためには、高い培養攪拌動力が必要であった。100m3超の培養槽導入時に、定格電力250kWの攪拌モータを設置し、相当な建屋耐荷重と設備強度が求められたが、攪拌培養に使える汎用モータとしては大規模なものではないかと思う(設備規模感の概要を図に示す)。

製作設置可能なモータの最大動力と想定液量をともとに、P/V値(=モータ定格電力×効率等/培養液量)を限界P/V値として求めておく。そして限界値をもとに、小型ジャーにスケールダウンすると、液量当たり攪拌所要動力一定のスケールアップ則を適用した場合の小型ジャー攪拌回転数が求まる。筆者の経験において、小型ジャーで非常に高い攪拌回転数が可能な装置が製作販売されている場合がある。研究目的のデータ取得を目指す場合は、広範囲で条件設定できることが好ましいが、実用化を目的としたデータ取得においては、その攪拌条件は大型タンクで実用可能なのか?という観点で小型ジャーの実験条件を設計しておかないと、実用化には使えない培養データとなる。強度面等からの高攪拌側の制約だけでなく、低攪拌側の運転可能範囲や攪拌による共振域を外す回転数設定の制約もあり、攪拌翼タイプ(径、翼形状、段数等)の条件がこれら制約に関わってくることになる。大規模設備導入には、ラボでは想定できない数々の制約が起こり得ることから、培養技術者と設備技術者が良好に連携しながら開発を進めていくことが大切と考える。

(執筆:K.Hi.)