開発中のバイオものづくり微生物・細胞の代謝ボトルネックを診断します
計測技術の役割
細胞内代謝物計測技術は、細胞内に存在する代謝経路(解糖系、アミノ酸生合成経路など)の代謝中間体を網羅的かつ定量的に測定する技術です。
バイオものづくりに用いられる微生物・細胞は、培地中の炭素源(グルコースなど)を細胞に取り込み、細胞内の代謝経路を介して目的物へと変換します。代謝反応が効率よく進行している細胞では、原料が代謝経路を円滑に流れ、目的物が効率よく生産されます。一方、代謝経路の一部にボトルネックが生じると、代謝の流れが滞り、目的物の生産効率の低下や、細胞活性の低下を引き起こします。
このような数十段階に及ぶ代謝経路の中から、どこで代謝が滞っているかを特定することは容易ではありません。細胞内代謝物計測技術では、代謝経路中の代謝中間体を網羅的に定量することで、代謝ボトルネックや代謝異常が生じている箇所を推定するための重要な情報を取得できます。
本技術は、バイオものづくり微生物・細胞の育種研究では、目的物の生産性向上に向けた代謝律速点の解明に有用です。また、スケールアップに伴って、微生物が受ける環境ストレスが代謝へ及ぼす影響を解析し、より安定で高効率なバイオプロセスの構築を支援します。

技術の概要
細胞内代謝物計測技術の測定対象は、微生物・細胞内に存在する代謝物です。代謝物には、アミノ酸や有機酸などの親水性化合物から脂質などの疎水性化合物まで、幅広い極性を有する化合物が含まれます。また、陽イオン性、両イオン性、陰イオン性、非荷電化合物などの電荷特性も多様であり、さらに、代謝物には同重体や構造異性体、幾何異性体が数多く存在します。そのため、細胞内代謝物を包括的かつ高精度に測定するには、各種クロマトグラフィーと質量分析を組み合わせた分離分析法が不可欠です。しかし、単一の分析法ですべての代謝物を測定することは極めて困難であるため、複数の分析システムを組み合わせて代謝物のカバレッジを向上させることが一般的です。
本拠点では、代謝物の物理化学的特性に応じた複数の分析メソッドを開発・整備しており、それらを組み合わせることで、網羅的かつ定量的な細胞内メタボローム解析を実現しています。また、高品質な細胞内メタボロームデータを取得するためには、微生物のサンプリングや前処理法も重要です。本拠点では、迅速な代謝クエンチ法をはじめとするサンプリング・前処理技術についても支援を行い、信頼性の高いデータ取得をサポートします。

活用例
理化学研究所の白井 智量チームディレクター、地球環境産業技術研究機構の乾将行グループリーダー、久保田健主任研究員らとの共同研究により、コリネ型細菌を対象に、培養時の環境ストレスがある代謝経路および代謝物生産に及ぼす影響を評価するため、細胞内代謝物の経時的なメタボローム解析を実施しました。その結果、イオンクロマトグラフィー質量分析(IC/MS)により141種の陰イオン性代謝物、ペンタフルオロプロピル(PFPP)基を修飾したシリカ固定相カラムを用いたPFPP-LC/MSにより127種の陽イオン性代謝物を定量し、合計268種の親水性代謝物について経時的な定量データの定量情報を取得しました。
さらに、取得したメタボロームデータと遺伝子発現データを統合解析することで、発現変動に注目すべき遺伝子の抽出、代謝ボトルネックを解消するための新規酵素の探索、およびボトルネック酵素の改良候補の提案など、バイオものづくり微生物の代謝設計に有用な知見を得ることができました。

利用方法
バイオものづくり計測拠点では、細胞内代謝物計測に必要な各種クロマトグラフィー質量分析装置を整備しており、本技術は既に確立されています。
本技術の活用をご希望される企業、研究機関の皆様には、受託研究を通じて細胞内代謝物計測サービスをご提供いたします。本拠点では、サンプリング条件や前処理法をご提案するとともに、ご提供いただいたサンプルについて、データ取得からデータ解析までを一貫して実施し、研究開発やバイオプロセスの最適化を支援いたします。
コンタクト先:和泉自泰(izumi.yoshihiro.sci@osaka-u.ac.jp)
