培養方法開発 ⑥工場立地の品質影響

大切な水と空気

培養設備の設計に関わるトピックス(現場ナレッジ、項目:設備設計(⑮~⑱))を既に紹介したが、本稿では、さらに上流工程の、工場立地に関する経験談を紹介したい。

製造拠点をどこに定めるか?ということは自社生産や委託生産等の方式に関わらず、重要な検討項目である。技術や損益計算のような定量評価だけでなく、地域連携までも含めたステークホルダーとの関係など、多様な視点からの総合判断になる。一度定めた製造拠点を変更することは容易ではないため、その土地固有の要素である水や空気が品質に及ぼす影響は、検討段階で着実に確認しておきたい。

まず水について。ラボで実験する時は、再現性を重視し余計な影響因子を排除するため、脱イオン水や蒸留水等の処理水を用いることが一般的であり、通常の水道水で培地調整して培養する経験は、意外と少ないのではないだろうか?筆者がよく実験していた地域は、水源が地下水だったこともあり、水道水のミネラル分が比較的豊富であった。このためであろうか、水道水と脱イオン水で比較実験すると、培養成績の差が再現よく現れていた(水道水培養では、生産性がやや低下する)。従って、製造拠点の検討では、処理水設備の保有状況を確認し、無い場合は設備投資の試算と、現地の水道水を入手して水質分析と培養評価を行うようにしていた。新規拠点で工場建設を行った時には、水源(河川水or地下水)と季節変動に関する現地調査まで実施し、処理設備の投資無しで問題なく製造できることを事前確認して実行した。

次いで空気について。好気培養では、菌への酸素供給の観点からkLaを効率的に上げる方法がよく議論され、結果的に大量の空気を吹き込む条件が採用される場合が多い。しかし、酸素供給とは別の視点でこの工程を眺めてみると、培養タンクは強力なスクラバー装置のような見方ができる。培養液と親和性が高い成分が空気中にあった場合、その成分が培養液や菌体で濃縮されることが起こりえる。筆者の経験で、立地環境に由来すると思われる大気中の微量有機成分が培養菌体から検出されたことがあった。高通気量かつ長期間の培養で、菌との親和性も高かったようである。この成分は、ごく微量であっても製品混入が許容できなかったため、コンプレッサの空気の取入れ口に活性炭フィルターを新たに設置することで、問題を解決したが、本来は工場立地の検討時に検討しておくべき項目であり、大きな教訓になった。

近年は、気象変動と、その影響による自然災害の激甚化が問題になっている。本稿で取り上げた項目に留まらず、異分野の知見も含めて広く立地影響について議論して、培養事業の基盤づくりを進めていくことが大切と考える。

(執筆:K.Hi.)