培養方法開発 ➂培養の水分蒸発量を求める

培養の水分蒸発量を求める

ジャーファーメンター等で培養すると、教科書には載っていない作業ノウハウや、予期せぬ課題解決の必要性に気付かされることが多い。筆者が扱っていた培養では、高通気量のため蒸発濃縮が進み、その対策(培養中の無菌水添加、結果解析で濃縮率の換算など)に苦心していた。蒸発量をどのように求め、条件設計・設備設計に反映させるのか?文献や教科書でも計算法の紹介が見出せなかったため、基本原理に則って経験則を作っていた。本稿では、この水分蒸発量の経験則について紹介する。

 ジャーファーメンターは、排気ラインのコンデンサー冷却機能付きが市販され、広く使われていることからも、蒸発対策は培養技術者にとって共通課題として認識されているようである。生産スケールでも同様の機構が採用されているケースがあるが、雑菌汚染リスクや設備保全箇所の増加に繋がるので、導入する際は慎重に設計検討した方がよい。高通気量・長期間培養になれば、蒸発による液量減少影響が無視できないレベルになることがあるため、原理に基づいた蒸発量の推測方法を獲得しておくことは重要と考える。筆者は、下記のように前提条件を定めて蒸発量を推定していた。

(前提条件)

  • 通気攪拌培養層のヘッドスペースは水蒸気が飽和(⇒排気は相対湿度100%)
  • 完全除湿した空気を供給する(⇒給気は相対湿度0%)
  • 給気エアーの空気全量が過不足なく排気される(培養槽内での反応変換等無し)

④ 培養液の水蒸気圧は温度のみに依存。蒸気圧は純水と同じと仮定(※)

 ※例:Tetensの式、飽和水蒸気圧E(t[℃])=6.11×10 (7.5t/(t+237.3)

 この前提にたてば、排気側には水の増分があるため、必ず、「給気側通気量<排気側通気量」、の関係が成立する。また、水蒸気圧は温度依存で培養槽内圧に影響を受けないため、培養槽を加圧するほど、相対的な蒸発量は減少する。計算例(下表)では、培養槽の内圧として大気圧と加圧の2パターンで例示した。

実際の培養では、給気エアーは若干の湿度を有している(前提②;ドライヤーでも完全除湿はできない)、微生物による呼吸代謝等で気体組成変化が起こっている(前提③)、培養液と純水では水蒸気圧が異なる(前提④;水溶液の蒸気圧降下)、これら現象により前提条件とは異なるため、実測値は理論計算値より少しズレが生じる。筆者が扱っていた培養系では、培養液の減少量実測値は計算結果よりも約1~2割少なくなっていたが、培養回数を重ねて経験係数(=実測蒸発量/計算蒸発量)を把握し、培養工程管理や設備設計に問題無く活かすことができた。正確でなくとも、原理に則った計算法で概算を把握し、条件変更時の蒸発量予測や、スケールアップの設備設計で役立てることができた。小型ジャーファーメンターでは、これに加えてサンプリングによる液量減少が無視できなくなることは、言うまでもないことである。培養途中の無菌水添加で液量をコントロールすることで再現性を向上させ、いい培養データを取得することに苦心していた。

実験データの神は細部に宿る、その実践にお役に立てれば幸いである。

表・計算例

(執筆:K.Hi.)