培養タンクの洗浄方法
現場ナレッジno.19で紹介したような、培養タンクへの入槽作業はできれば避けたいものである。では、生産設備の自動洗浄をどのように設計すればいいのか?筆者の経験をもとに、事例紹介をさせて頂く。
水を流すだけで除染できれば簡単だが、有機物の加熱処理(加熱殺菌)を経た培養タンクの洗浄は容易ではない。まず、薬剤として、酸による作用(例、カルシウム塩の可溶化)、アルカリによる作用(例、タンパク質等の変性)、加熱作用(例、糖分の溶解度向上)、このような基本原理をベースとして、キレート材や塩素化剤添加等の改良を施した洗浄薬剤を適切に選定することが最初のステップになる。薬剤の評価法としては、培養槽と同材質のテストピースを用意して、これを浸しながら培養して培養汚れ付着片を作成。この付着片に様々な薬剤を作用させて条件検討することで、適切な洗浄条件の示唆を得ることができる。
次いで、物理的作用の利用検討になるが、培養タンクに対しては、高圧水流を伴う洗浄ノズルの設置がよく行われている(例、挿絵のイメージ)。多種多様なノズルが製作販売されており、適切な仕様を選定して槽内全面に噴射できればいいが、現実には、攪拌翼等の槽内構造物の陰になる部分(翼の裏側等)があり、さらに、強固な汚れに対しては噴射距離の影響で水圧不足になる場合が多く、万能な方法とはいい難い。タンク内壁面を伝う液流れは、重力による自由落下でその流速が決まり、強固な汚れを剥離できるほどの高流速にはならない。高圧噴射で不十分な場合は、薬剤を培養タンクに張り込んで、高温下で一定時間の攪拌浸漬する方法がよく採られている。ここまでが、タンク類の自動洗浄の限界であろうと考える。高い流速設計できる送液配管に関しては、溜まりのない配管構造と高線速度を出せるポンプ選定をしておくことで、かなりの改善が見込まれ、ほぼ自動洗浄だけで実施されることが多いと考える。
このように、洗浄工程の設計法を紹介したが、最も重要なことは、求める洗浄レベルを決めることであろうと考える。培養タンクの使い方が、多品種なのか単一品種なのか?残留汚れが次生産の品質にどの程度の影響度を持つのか?等の観点から経済性も加味した総合判断になるため、一般化することは難しい。他の要因(排水処理能力、法規制等)による使用薬剤への制約も考慮が必要であることから、生産現場における洗浄方法設計は、科学的考察にプラス経験知が大いに求められる分野であろうと思っている。
(執筆:K.Hi.)