攪拌翼の選定
培養プロセスにおいて、培養槽の攪拌翼の選定は非常に重要である。好気培養では、酸素供給能力が実質的な生産性を左右するため、酸素移動容量係数(kLa)が装置の重要指標として扱われ、kLaを念頭にスケールアップを考えるのが一般的である。
伝統的にRushtonタービン翼(Rushton氏が発明したディスク付きの平羽根翼、通常6枚)が用いられてきた理由の一つは、構造が比較的シンプルで、通気攪拌においてガス分散性能が高く、酸素移動を確保しやすい点にある。さらに微生物培養では、このタービン翼を上下方向に複数設置し、多段タービン翼として用いるケースが多い。
一方、タービン翼は一般にせん断が強くなりやすいため、動物細胞等のせん断感受性が高い系では十分な注意が必要である。その場合、垂直方向のほぼ全面をカバーする大型翼や、水平に板状の翼を設置し上下に往復するタイプの攪拌方式が用いられることがある。動物細胞培養では、微生物培養に比べて酸素消費速度が小さいことも多く、もっぱら全体混合と低せん断を重視した翼選定が行われる。ここでいう全体混合とは、槽内における酸素濃度やpH、栄養成分の局所的な偏りを抑え、高せん断領域を生じさせないことを意味し、翼形状や回転条件の影響を強く受ける。
さて、Rushtonタービン翼であるが、平羽根(フラットブレード)を垂直に並べて回転させる構造のため、通気攪拌条件では翼背面にガスで満たされたキャビティ(空洞)が形成されやすいことが古くから知られている。タービン翼ではこのキャビティ構造が、通気時の動力低下の原因になり、結果としてガス分散や酸素供給性能が低下し得る。また、条件によっては局所的な圧力変動等により、翼表面の損傷(キャビテーション・エロージョン等)や腐食のリスク要因となり得る。
そのため、湾曲した板を用いるコーンケーブ(Concave)翼やスカバ(Scaba)翼などの改良翼が提案されてきた。湾曲翼の改良効果は平羽根に比べて翼背面のキャビティ形成が小さくなることである。さらに、深い湾曲翼では、ガスが背面キャビティからではなく翼の内側から分散される挙動が示されており、結果として通気時の動力低下が抑えられるといわれている。
攪拌翼の選定は、単なる混合の問題ではなく、酸素移動(kLa)に加えて、必要攪拌動力、ならびにモータや減速機といった設備の許容範囲を同時に満たすかどうかという総合的な設計問題である。スケールアップにおいては、幾何学的相似と単位体積当たり動力(P/V、Pv)一定を基準にする考え方が広く使われる一方、槽径が大きくなるにつれて、相似則だけでは混合状態や酸素移動の再現が必ずしも保証されなくなる場合がある。別項で述べている通り、実用化を目的とするデータ取得では「その攪拌条件は大型タンクで実用可能なのか」という観点で十分に吟味する必要がある。
(執筆:A.K.)


